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韓ドラ「ベートーベン・ウィルス」のカン・マエ×ルミの二次小説ブログです。管理人:寅三吉。

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寅三吉。

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最終話三部作 第3夜「“こどもたち”の情景」

Posted by 寅三吉。 on   2  0

3年前、パリの音楽院エコール・ノルマルに入学したカン・ミウは、学校が夏休みに入ったので韓国に帰ってきた。
帰ってきた…と云っても彼女は生まれはドイツのミュンヘンで6歳からはずっとパリに住んでいる為、どちらかというと「両親の母国である韓国を訪れた」という感覚である。

高級住宅街のとある場所でタクシーを降り、トランクに積んでもらっていたスーツケースを運転手に下してもらう。
スーツケースを受け取ると「ありがとうございました」と運転手に慇懃に一礼して顔を上げた。
その顔立ちは彼女の母親の若い頃にそっくりだが、キリッとした精悍な眼差しは父親によく似ている、と彼女の両親を知っている人は必ずと云っていいほど口にする。

65歳を過ぎたミウの父親…カン・ゴヌは、以前から「いつかソクランに家を建てて住みたい」と云っていた妻の夢を叶えてあげた。
とはいえ今となっては彼の名声は韓国国内だけでは留まらず、クラシックを嗜む人間の中で知らない者はいないと云われているので、ウィーンやミュンヘン、パリ、そしてイタリアとタヒチにも別宅を持っている。
仕事も以前よりはセーブしているとはいえそれなりに多忙を極めている為、この家に居るのは年間を通して三分の一ほどだ。
東京とパリのオケの音楽監督はしているものの、常任指揮者は現在やっていないので海外に行くことが多いのである。

その彼の妻であるトゥ・ルミは夫の仕事に付き添える時は付き添うが、彼らの二人目の子供であるカン・ヘソンがソクランの中学校に通っているので、ソクランに居ることが多い。



“こどもたち”の情景

ミウは父親のような迷いのない歩調で緑豊かな広い庭を通り過ぎ玄関へと到達する。

(えーっと、暗証番号はベートーベンの誕生した年だったわね)

「1770」と玄関ドアのナンバーを押すと、電子音の後に開錠する音がした。

部屋に靴のまま上がろうとしたところ、玄関のすぐ横にスリッパが置いてあることに気付き

「あ、そっか。
 ここでは靴脱がなきゃ…」

と独り言ちて履いているコーラルカラーのデッキシューズを脱いで上がった。
リビングにスーツケースを置き、隣りの部屋にあるキッチンに行って冷蔵庫を開けてドアポケットのミネラルウォーターを手に取ると、綺麗に磨き上げられたグラスに入れて一気に喉に流し込んで潤す。
するとブルーマールの毛色をした二頭のラフコリーが二階から降りてきて、「ウォンウォン!」と嬉しそうに吠えた後、カチャカチャと爪音を立てながらミウの周りをグルグルと走り始めた。

「ちょっと、ラームス、ルックナー!
 あんたたち…爪、切ってもらった方がいいんじゃない?
 あんたたちの世話係りはヘソンなのに、アイツ、さぼってるわね」

そして二頭を引き連れてリビングに戻ると、ブルーグレーのベルベットのような美しい毛並みの猫が「ニャオーン」と鳴きながらミウの脛に擦り寄ってきたので背中を大きく撫でてやる。
猫が近くに来ると、今まではしゃいでいた二頭のラフコリーはお座りをして大人しくなった。

「ルー、久しぶりね、元気だった?」

ミウは猫を抱き上げるとゴロゴロゴロ…と嬉しそうに喉を鳴らし始めた。

「ちょっと痩せたんじゃない?
 ま、ルーももうだいぶお婆ちゃんだもんね、仕方ないか」

そのままソファに行って座ると、中指の先で猫の首の後ろをマッサージするようにグリグリと押してやる。

「ところで…家には誰も居ないのかな?
 お母さんからのメールにはヘソンは居るって書いてあったと思ったけど…」

すると2階からクラシック音楽とは違う、重低音の効いた音楽が微かに聞こえてきたので猫をそっと床に置いた。

あまり足音を立てないように階段を上ると奥から3番目の部屋のドアが開いており、音楽はそこから聞こえてきているようだ。
開かれたドアを軽くノックすると学習机に向かって座っていたこの家の主の長男である14歳のカン・ヘソンが振り向き、相手の顔を認めると笑顔を見せた。

「あ、やっぱり姉さんだったか。
 お帰り」

「ただいま。
 ねぇ、ラームスとルックナーの爪、カチャカチャいってるわよ。
 床が傷つくとお父さんに怒られるんじゃないの?」

「ああ、あれね。
 流石のお父さんも諦めたみたいだよ。
 アイツらが落ち着いた年頃になったら、床を張り替えるって云ってた」

「わーぉ…あのお父さんを黙らせるなんて…。
 あの子たちのパワーは凄いわね。
 で、そのお父さんはお母さんとゴヌ先生のコンサートに行ってるんだっけ?」

「うん、そう。
 ソウルに行ってる」

「ヘソンは何で行かなかったの?」

「俺、コンサートホールの椅子にずっと座ってると、ケツが痛くなってくるんだよね。
 それにゴヌおじさんには悪いけど…毎日イヤというほどクラシック聴いてるからさ。
 だから今日はお父さんが嫌いなカヨウ曲をガンガンにかけて聴いてんの」

「ゴヌ先生の指揮する音楽は、お父さんのとはまた全然違ってていいのに…」

「何度もコンサート行ってるから知ってるよ!
 たまにはポップスやロックを聴きたいの、俺だって年頃の男なんだから。
 クラスメイトと話を合わさないと」

「ふーん、普通の男子中学生をやってるのね~」

そう云いながらミウはベッドの上に散らかっていたヘソンのパジャマを端に寄せると腰掛けた。

「はぁーそれにしても韓国の夏って本当に暑いわよね!
 蒸し暑くて肌がベトベトする…パリやミュンヘンでは考えられない。
 ヘソンは平気なの?」

「確かに茹だるように暑いけど、もう慣れたかな。
 それに毎日のようにプールに入ってるから、それはそれで楽しいしね。
 今日も午前中、学校の友人たちが来て遊んでったよ」

とプールがある庭の方を親指で差した。

「姉さんは本当にピアノ科から指揮科に転科するの?」

「するんじゃなくて、もうしたの。
 夏休みが終わったら指揮科に通うわよ」

「お父さんと同じ道を進むんだ。
 まぁ姉さんは昔からお父さんっ子だもんね」

「ヘソンは音楽学校には行かないんだって?」

「うん。
 別にピアノもヴァイオリンも嫌いじゃないけど、姉さんみたいにそれを職業にしたいとは思えないんだよ。
 それよりも星のこと…天文学をやりたい。
 だから普通の高校に行くつもり。
 そこで理数系のクラスに入って、天文学のある大学に行こうと思ってるんだ」

それを聞いたミウは、弟の部屋の本棚に並ぶ宇宙の本の背表紙を人差し指で触れる。

「昔から好きだもんね、宇宙のこと。
 名前が『ヘソン』ってだけあるわ」

「そうだよ!
 なんで音楽一家のこの家で、俺が『ヘソン(彗星)』なんて名前?
 姉さんは『ミウ(美音)』なのにさぁー…」

不満そうに眉を顰めるヘソンに、ミウは母親によく似た半月型の大きな瞳をパチパチと瞬きさせる。

「……名前の由来、お父さんかお母さんから聞いたことないの?
 私はてっきり由来を知ってるから、ヘソンが宇宙のことに興味があるのかと思ってた」

「俺の名前の由来?
 自分の名前がこうだから、宇宙のことに興味を持ったのは確かだけど…」

「あんたはね、ペルセウス流星群が凄かった夜の明け方に生まれた赤ちゃんだったからよ」

「…そうなの?」

「だから生まれる前はお父さんもお母さんも、音楽に関係ある名前にしようと思ってたみたい。
 でもそんな夜に生まれた子供だったから、その名前になったのよ。
 お母さんが『きっと流星が私達に授けてくれた赤ちゃんなのね』って。
 で、最初お母さんが『ユソン(流星)にしよう』って云ったんだけど、お父さんが『流星なんて一瞬で燃え尽きて消えるから駄目だ。ウヂュ(宇宙)とかヘソン(彗星)、ウナ(銀河)にしろ』って云ったの。
 それであんたの名前はヘソンになったのよ」

「あー…なんか、そういえば、そんなこと聞いた覚えがある様な…。
 でも俺がすっごく小さいころだよね、幼稚園行ってた時くらいの」

「…あの日のことは、私はまだ7歳になる前だったけど、ハッキリ覚えてる。
 『そっかーお星様が連れてきてくれたんだ、私の弟を!』って思ったもの」

「ふーん」

ヘソンは恥ずかしそうな顔をして頬を掻くと、机に向き直って先ほどまで読んでいた本に再び目を落した。

彼らの父親とヘソンは顔や骨格は非常に似てるものの、性格は全く違う。
気難しいと云われている父親――二人はあまりそのように思ったことはないのだが――に反し、その息子は明るく屈託のない性格で、どちらかというと母親の性格に似ている。
だが彼は幼い頃から本が好きで、暇があればテレビよりも本を読むことを好む少年だ。
そういうところは尊敬している父親に似ている、とミウは以前から思っていたのだった。

「お父さんとお母さん、一緒にコンサートか…。
 相変わらず仲がいいわよね~…」

そう云うとミウは突然噴き出すように笑い出し、そんな姉の姿を見てヘソンは父親がよくするような怪訝な顔をする。

「何だよ…気持ち悪いな」

「ちょっと思い出しちゃって…。
 あれはヘソンが4歳くらいの時だったと思うんだけど、覚えてないかな?
 朝食か夕食を食べてる時、ヘソンが『ボク、大きくなったらお母さんと結婚するんだ』って云い出したの」

「…俺、そんなこと云ってたの?」

「云ってたのよ。
 そうしたらお父さんがね『お母さんはお父さんと結婚してるから駄目だ。お前とお母さんは結婚できない』って返したのよ」

「へぇ~」

「で、あんたが『やだ!お母さんと結婚したいもん!』って云ったらお父さんったら『駄目だ。大体にして親子は法律で結婚できない決まりなんだ、諦めろ』って…」

「法律?4歳の俺に?
 父さん、大人気ないなぁ!」

「そうそう、その会話を聞いてお母さんと私は『お父さん、大人気ないわね』って云ったのよ。
 …でもゴヌ先生も前に云ってたけど、お父さんは本当にお母さんのことを大切に思ってるのよね」

「ゴヌおじさん、そんなこと云ってた?」

「私が中学生くらいの時だったかなー。
 ホラ、お父さんって口が悪いじゃない?
 何が原因か忘れたけど、お母さんのことを責めるようなことを云ってたことがあって…。
 もっともお母さん本人はあまり気にしてなかったんだけどね。
 それで私がゴヌ先生に『お父さんったらお母さんに酷いのよ』って愚痴ったの。
 そしたら先生が『お父さんは愛情表現が下手だからそういう態度を取ってしまうけど、本当はお母さんのことを心から大切に思ってるんだよ』って云ったの。
 この年になってそれが少し分かり始めたかな。
 お父さんは口達者だけど、自分の心の内を上手く表に出せない不器用な人なんだよね。
 私もそういうところが少しあるから何となく分かるわ…」

「よっく云う!
 俺には容赦ないこと云うくせに…」

「あんたは弟だもの!
 身内だけよ、間違ってくれることを正してくれる存在は」

「まぁ、確かにお父さんも姉さんも厳しいけど、間違ったことは云わないな。
 ってかお父さんは俺には厳しいんだよね~姉さんに対しては甘いのにさ…」

「しょうがないわよ、男親ってそういうものらしいわ。
 前にミュンヘン行ったときにイドゥンさんがそう云ってた。
 アレックスおじさん、末っ子のアンちゃんに甘々だもの。
 …いいじゃない、その分お母さんがヘソンには甘いもの」

「甘くないよ!
 昨日なんか冷蔵庫に入ってたプリンを勝手に食べたら、鬼のような形相で叱られたよ!」

ミウは「あはははは!」と母親に似た声で豪快に笑うと、

「食べ物のことに関したらお母さんは容赦ないわよ。
 どうせすごく高いプリンを食べたんでしょ。
 スーパーで買ってきたようなプリンじゃなかったんでしょ?」

「う……確かに頂き物の、すごく高そうなヤツだった…。
 『ミョンファン先生から頂いたプリンの最後の一つだったのに!』…って」

「え?ミョンファン先生、来たの?」

「うん、5日前だったかな。
 仕事じゃないけど韓国に来る用事があったから…って。
 ゴヌおじさんも来て夜中までお父さんと3人で話し込んでたみたいだよ」

「えー、そうなんだ…。
 指揮のことについてミョンファン先生に訊きたいことがあったからお会いしたかったな…」

「なんで?
 お父さんに聞けばいいじゃん」

「お父さんよりもミョンファン先生の方がロマン派や近代音楽が得意でしょ。
 ミョンファン先生の解釈が聞きたかったのよ」

「そんなこと父さんの前で云わないでよ。
 一気に機嫌が悪くなるからさ」

「分かってるわよ!
 お父さんの前では口が裂けても云えないわよ」

「ならいいけど…」

「さて…と。
 これからゴヌ先生の家で夕食会なんでしょ?
 お父さんとお母さんはそのまま先生の家に?」

「多分そうだと思う。
 タクシーで来いってお金渡されたけど、歩いて10分なんだから歩いて行こうよ」

「そうね、長時間のフライトで体が鈍(なま)っちゃったし、歩いて行きますか」

ミウが部屋を出た後、ヘソンはTシャツとジーパンからポロシャツとチノパンツに着替えると1階に降りていき、7歳上の姉と一緒に玄関を出た。

二人が並んで歩く姿は昔日の両親の姿によく似ている。
成長期であるヘソンの現在の身長はまだ173cmしかないのだが、あと数年も経てば更に伸び、今よりもっと父親に似てくるのであろう。

玄関横にある窓枠には猫のルーがスフィンクスのような格好で佇んでおり、その横で二頭のラフコリーが窓枠に前脚を掛けて外を覗いている。

ラフコリーたちはすぐに窓から離れてじゃれ始めたが、ロシアンブルーの老猫は成長した子供たちの後ろ姿をまるで見守るように、二人が道を曲がって見えなくなるまで見送っていた。








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寅三吉。

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-2 Comments

ran says...""

寅三吉。さま

こんばんは
まずは最終話の創作、執筆、掲載お疲れ様でした。
そして繊細に美しく淡い色のベールによって幕を閉じた、、、
そんな印象であります。
ドラマの消化不良から彷徨った日々は懐かしく、
今は幸せなカンマエを感じられ、私自身の心を満たしてくださった事に
心より感謝です。

まずは、「お疲れ様でした」と「おめでとう」と「ありがとう」を
お伝えして、後は「あとがき」を拝読してから参ります。
有難うございました。



2014.05.14 23:41 | URL | #0EjQUAK2 [edit]
寅三吉。 says..."Re: タイトルなし"
●ran様

いつもコメント有難うございます。

> 繊細に美しく淡い色のベールによって幕を閉じた、、、
> そんな印象であります。

まさかそんあ風に感じて頂けるなんて…私自身は「子供の目から見た仲良し夫婦の姿+α」を単に書いただけなのですが(笑)
子供たちの穏やかなやり取りで、カン・マエ一家の幸福度を感じて頂けたら…とこんな締め方になりました。

ドラマ内のカン・マエとルミの恋の行く末に不満を感じ、続きはないのか…とネットなどで調べた方は多いと思います。
そして当ブログに辿り着いて読んでくださり、その不満をある程度解消して頂けたなら幸いです。
何より私自身、とっても楽しんで書かせていただきました(笑)
特にカン・マエというキャラは大変弄り甲斐があるキャラで…ルミやミョンファンを通して、色んな表情をさせてしまいました。
きっとストイックなカン・マエが好きな方は、「こんなカン・マエ、嫌だ…」と思われたことでしょう(;^ω^)

労りのお言葉、本当に有難うございます。
また引き続き拍手や雑記などもアップすると思うので、読んでいただければ幸いです。
2014.05.15 10:56 | URL | #m9hpFNiU [edit]

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