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韓ドラ「ベートーベン・ウィルス」のカン・マエ×ルミの二次小説ブログです。管理人:寅三吉。

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寅三吉。

Author:寅三吉。
色々と「萌え」の多い人生。
そして現在韓国ドラマ「ベートーベン・ウィルス」のカン・マエ×ルミの妄想をする楽しい日々を過ごしております。
そのありえない妄想をこのように形にしております。楽しんで頂ければ幸いです。

初めてお越しの方は下の「カテゴリ」の「はじめにお読みください」を読んで頂けると有難いです。

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のだめ・ウィルス劇場 第3楽章 2014-10-16-Thu

こんにちは。
やっとこさ「のだめ・ウィルス劇場」が完成いたしました。
待ってくださっていた方も、「別に待ってないけどアップしたなら読んでやるか」という方もお待たせいたしました!

今回もベバの世界にのだめがやってきたのではなく、のだめの世界にカン・マエがお邪魔してるような形になっております。

そしてこのSSではラフマニノフのピアノ協奏曲第2番が出てきます。

ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番 ハ単調作品18

リンク先は辻井伸行さんのピアノ演奏です。

私はこの曲をのだめで知りましたが、クラシックファンには定番の、人気のある曲なんですね。
確かにベバに嵌り、クラシック番組を見るようになってから何回かコンサートで演奏されたり、テーマとして取り上げられています。
フィギュアスケートの選手もこの曲で踊る人が非常に多いんだとか。
ドラマティックな曲ですからねー。

ほんの少しだけ、第一楽章の始まりから説明いたしますと…

主題呈示部に先駆けてピアノ独奏がロシア正教の鐘を模した、ゆっくりとした和音連打をクレッシェンドし続けながら打ち鳴らし、導入部がついに最高潮に達したところで主部となる。(ウィキペディアより抜粋)

簡単に云うと最初はピアニッシモ(弱く)で始まる鐘(ピアノ)の音が徐々に強くなり、フォルテッシモ(強く)になったところでオケの演奏が入ります。
このSSではこの部分だけ理解して頂ければオッケーです(笑)

のだめのキャラからは…今回はこの方が初登場~♪

syutorezeman.jpg


フランツ・フォン・シュトレーゼマンです。
分かりやすいように人物解説入りの画像を挿入。
(すみません、どちらからか勝手に拾ってきました(;^ω^))

タイプでいうと明るく愛想のいい、ミョンファンのようなキャラクターです。
そして女好き。
でも音楽に対しては真面目だし、若い頃は滅茶苦茶勉強してたらしいです。
カン・マエと相対するミョンファンの中身は、この人をモデルにしたんじゃないかなーと思えます。

ドラマでは竹中直人氏が演じられましたが、やっぱり漫画のシュトレーゼマンのイメージが好きな私です。
変人(恋人ではない)が多いのだめの世界ですが、シュトレーゼマンものだめに負けず劣らずの変人…プププ♪
でものだめと違って、まともな変人です(どんなだよ…)。

他の初登場者は峰龍太郎(演:瑛太)と三木清良(演:水川あさみ)もチラッとだけ出てきます。

どうでもいいことですが、これを機にこのシリーズを「第○楽章」と銘打ちました。

それでは続きからドウゾ♪




その白髪の老人は、もうすぐ80歳になるとは思えないような軽快な足取りで東京駅のだだっ広いコンコースを横切っていた。
ドイツ人であり、身長が180cmもあって目立つ所為か、はたまたいい年した老人が朗らかな表情でスキップしていたので周りに居た多くの人々は彼が通り過ぎると振り返り、中には「変な人」といったニュアンスで笑う人も居る。
当の本人は人目を気にする様子は全くなく、それどころか行き交う人々に愛想を振り撒いている始末である。

先ほど彼のスマホに待ち合わせ場所を変更して欲しいという旨のメールが、彼の弟子にあたる人物から届いた。
同じ東京駅の構内であったので了解し、今は変更になった待ち合わせ場所に向かっている途中である。

「えーっと、待ち合わせ場所は確かこの辺…」

立ち止まって周りをキョロキョロ見渡していると、一人の女性の姿が老人の目に留まった。
途端、彼は満面の笑みになるとその女性の傍へと近付いて行き、何の躊躇をすることもなく女性に話しかけた。

「美しいお嬢サン、貴女も待ち合わせですか?
 よろしければ待ってる間、ワタシとお話ししまセンか~?」

すると女性は困惑した表情をした後、

「ゴメンナサイ、ワタシ、ニホンゴハナセマセン」

と片言の日本語を口にした。
彼女の容姿は日本のこの風景に非常に馴染んでいたので老人は些か驚いた。

「アラ、日本人じゃナイんですか…?」

そうなると中国系?だとしたら自分は中国語は話せない…と、うーん、と唸っていると。

【英語なら話せますけど…】

話しかけてきた相手が白人だったからか女性は英語で答えて微笑み小首を傾げると、長い髪がさらりと肩から流れ落ちた。

【Oh!英語ならダイジョーブでーす!】

老人は女性の左手をギュッと握ると、当然ながら女性は驚いた顔をした。

【ワタシはミルヒ・ホルスタインといいます。
 美しい御嬢さん、アナタのお名前を教えてくださーい】

【え?名前…ですか?
 私の名前は…】

「…マエストロ・シュトレーゼマン」

低くてよく響く声が、突然老人の耳に届いた。



「のだめ・ウィルス劇場 第3楽章」



名前を呼ばれた背後を振り返ると、老人…フランツ・フォン・シュトレーゼマンは思わず顔を引き攣らせた。
何故なら彼の後ろには、現在パリを拠点として活躍する韓国人指揮者のマエストロ・カン・ゴヌ…カン・マエが居たからだ。

「アナタは……まさかカン・ゴヌ…?」

シュトレーゼマンはカン・マエが苦手だ。
以前2度ほど会ったことがあるのだが、カン・マエの真面目過ぎる、冗談が通じない性格にどうにも参ってしまい苦手意識が生まれた。
彼と同郷で学友だという指揮者チョン・ミョンファンとは、初めて会った日から意気投合したものだが…。

カン・マエはこうべを垂れて軽く会釈をすると、

「大変ご無沙汰しております。
 もう10年ほど前にお会いして以来でしょうか。
 それと…」

流暢なドイツ語で慇懃に挨拶した後、つい先ほどまでシュトレーゼマンが口説いていた女性の肩をふっと抱いて自身の胸へと引き寄せ、

「私の妻に何か御用ですか?」

口元に笑みを浮かべてはいるが、まるで目から脳味噌まで射抜かれそうな、猛禽類のような鋭く冷たい視線をシュトレーゼマンに向けた。

「…ワタシの、ツマ?」

するとカン・マエの隣りで遣り取りを見ていたシュトレーゼマンの弟子であり、若手指揮者の千秋真一が

「フランツ…。
 その方はマエストロ・カンの奥方のトゥ・ルミさんです…」

と云ったあと、呆れたように大きな溜息を吐いた。

「Ach, nein…!」

シュトレーゼマンはドイツ語で「なんということだ…!」と云うと両手で大袈裟に頭を抱えた後、がっくりと地面に膝をつき項垂れた。





「全く…アンタって人は!」

千秋とシュトレーゼマンはカン・マエ夫妻と別れた後、シュトレーゼマンの宿泊先でもある東京駅に隣接する高級ホテルのティールームで午後のお茶を飲んでいた。

「前にもヴィエラ先生の奥さんと知らずナンパしたことがあるんだろ?!
 それも一因でヴィエラ先生と険悪になったんだろ!
 いい加減懲りろよ…!」

「ワタシからガールハントを取ったら、抜け殻になってしまいマスよ」

シュトレーゼマンは千秋の剣幕もどこ吹く風で最高級のニルギリティーを口にする。

「はぁ~それにしてもまさかあんなキレイな女性があの偏屈なカン・ゴヌのオクサンだなんて……一体世の中どーなってんデスか!
 もームカつくを通り越してウラヤマシイデース」

「……もうそろそろ抜け殻になって欲しいくらいだよ…」

「ところでのだめチャンは?
 一緒に来る予定だったデショ?
 姿が見えまセンネ~。
 人妻になって数年経つし、さぞキレイになったんじゃないかと思って、ウキウキしながら来たのに」

千秋はテーブルの反対側に座るシュトレーゼマンをギロリと睨むと、マドレーヌを口に放り込んでダージリンで流し込んだ。

「…アイツはピアノの練習をすると云って、先に家(横浜の千秋の実家)に帰りました。
 今回はいつも以上に、ものすごく熱心にやってます」

「ふ~ん…まぁカン・ゴヌ君はマジメで堅物な指揮者だからネェ~。
 流石に今までのような演奏は許されナイかもネ」

「ええ、俺が散々譜面通りにやるよう、がっつり云っておいたんで。
 それにあいつもコンツェルトも大分慣れてきたようだし、大丈夫だと思いますよ。
 なんだかんだで、ちゃんと音楽に正面から向き合ってます」

「彼女もだいぶ成長しましたネェ」

ティータイムを終え、会計を済ませると(支払いはシュトレーゼマンのプラチナカードである)2人はティールームを出た。
千秋は馳走になった礼をシュトレーゼマンに伝えた後、

「で、今からホテルの部屋に戻るんですか?
 それともラ・フォル・ジュルネの会場へ?」

とスーツのジャケットの袖に腕を通しながら訊くと、シュトレーゼマンは呆れたような表情で軽く溜息を吐く。

「…全く…。
 シンイチ、キミは私の弟子になって何年になりマスカ?」

「は?
 えーっと…かれこれ10年くらいになるんじゃ…」

「10年も経つのに師匠の行動を把握してないとは…。
 何処に行くかって?
 ホテルの部屋?会場?
 ナニ寝惚けたコトいってるんですか!
 今から私とキミは、久しぶりに『クラブ・ワン・モア・キッス』に行くに決まってるのデース!」

「はぁ~~~?!?!」

「ハイハイ、行きますヨ~♪」

シュトレーゼマンは千秋の腕をがっしと掴むとタクシー乗り場へと向かうべく、嬉々としてエレベーターホールへ歩いて行った。





一方、千秋たちと別れたカン・マエとルミ。

あれからカン・マエは不機嫌な表情でルミの隣りを歩いている。
ルミは夫が何故不機嫌なのか分からず、場の雰囲気を変えようと話しかけた。

「あの、先生。
 マエストロ・シュトレーゼマンって…今のご老人、まさかドイツ人指揮者のフランツ・フォン・シュトレーゼマンだったんですか?」

「――そうだ」

「えー!
 スゴイ人に声を掛けられたのね、私!
 なんだか指揮してる時のイメージと全然違ったから、分からなかったわ」

「…だろうな。
 彼は指揮者としては超一流だが、人としては『トントン・オ・リ(フンの塊)』だ。
 今のように麗しい女性を見ると見境なくナンパしまくってるような死に損ないの爺さんだ」

とのべつ幕なしに捲し立てた。
ルミは憤慨している様子のカン・マエの横顔を上目で見る。

「………先生、大先輩に云い過ぎじゃ…」

「云い過ぎなものか。
 世界的指揮者たるものが、いい年をして…恥を知れ!」

カン・マエは険しい顔をしブツブツ云いながら歩いていると、暫くした頃にルミがスーツの右腕の裾をくぃくぃっ…と軽く引っ張った。

「なんだ?」

「…あの、先生」

「ん?」

「あの…さっき、『今のように麗しい女性を見ると…』って云いましたね?」

そう云われ、カン・マエの歩みが何故かピタリと止まった。

「………」

「私、麗しい女性なの?」

まるで恐ろしい物でも見るかのようにおもむろにルミが居る右側に顔を向けると、彼女の瞳はキラキラと煌めいている。

「………」

「ね、麗しいの?」

一呼吸置いたのち、彼はカツリと革靴の音を立てて立ちはだかる様に妻の前に身体を置くと

「――お前の聞き違いじゃないのか?
 誰が『麗しい女性』だと?
 最近のお前は怒った時にサムタク(闘鶏)どころか、粗暴なダチョウやヒクイドリに見えることがあるというのに。
 下手するとヴェロキラプトルという恐竜に見えることもあるぞ。
 知ってるか?
 ヴェロキラプトルは、今日存在するどんな鳥よりも獰猛であったと言われている鳥の祖先だ」

上唇を捲り、からかう様な口調で云うと空を仰ぎ、

「……今日は晴天だが、どうやらお前の左耳は不調のようだな」

そしてフッと鼻を鳴らすと、再びいつものあの優雅な足取りで歩き始めた。
ルミは唇を尖らせた不機嫌な顔付になり、いつもよりも更に足早になっている夫の後ろを小走りで追い掛けた。





今回、カン・マエたちが日本に訪れたのは毎年5月の祝日に合わせて行われるという「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」に参加するためだ。
フランスのナントで年に一度催されるクラシック音楽の祭典を、日本では2005年から開催されている。
カン・マエはその祭典の「目玉」として依頼され訪れたのだった。

この祭りの最終日、カン・マエは若手日本人ピアニストのメグミ・ノダ…愛称「のだめ」とコンチェルトをする。
のだめは千秋真一の伴侶でもあり、カン・マエも数回会ったことがある。
お互い多忙の為、リハーサルは結局2日しか出来なかったのだが演奏の出来は上々だ、とカン・マエは感じていた。

コンツェルトとして選ばれた曲はロシア人作曲家セルゲイ・ラフマニノフの「ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18」。

19世紀後半から20世紀前半に掛けて活躍したラフマニノフは、貴族家系生まれで幼少期は何不自由なく暮らしていたが、9歳の時に一家は没落。
だがその頃すでに音楽の才能を見出されていた為、ペテルブルク音楽院に奨学金を得て入学。
その後、モスクワ音楽院に転入し、厳格なピアノ教師であるニコライ・ズヴェーレフに師事。
やがてチャイコフスキーに才能を認められ、ピアノ科でも作曲家でも優秀な成績を収めて首席で卒業した彼の将来は非常に明るいものであった。

しかし1897年に初演した交響曲第1番が記録的な大失敗に終わり、ラフマニノフは作曲が出来なくなるほど精神を病んでしまう。
そんな彼を周りの友人たち…オペラ歌手のフォードル・シャリアピンや作家のアントン・チェーホフ、精神科医が支え、1901年10月27日に全曲初演されたこの「ピアノ協奏曲第2番」で大成功を収めたのである。

独奏するピアノの鐘を模した美しい和音、優しく穏やかなオーケストラの音に対して技巧的なピアノソロの前奏は、初めてこの曲を聴く者に強く印象を残すであろう。


本日はその祭典の最終日…ふたりの公演日である。

コンサートホールに到着した千秋とシュトレーゼマンは自分たちの席に着くと、オケ団員たちが舞台袖から出てきて各々の席に座り始めた。
団員全員が揃うとコンサートマスターがピアノの「ラ」を叩いてチューニングを始める。

それから奏者達が楽器のチューニングを終えて暫くした時にのだめ、それに続いてカン・マエが登場したので会場は大きな拍手に包まれた。
のだめは早足に舞台中央へ到着すると、まるで子供がピアノ発表会の時にするような幼いお辞儀をぺこりとする。
顔を上げると彼女の唇は尖っていた。

(アイツ…もう既に集中してるな。
 いや、緊張か?
 唇が尖ってる…)

千秋は妻のその表情を見て頭の中に何かが過ぎったのだが、それは泡沫のように一瞬にして消え去った。
思わず渋い表情で小さく首を振る。

(俺も大概心配性だな。
 いい加減、アイツを信頼してもいいのに…)

そして気を取り直すように軽く腰を浮かして姿勢を正すと、舞台を直視した。

コンマス、そしてのだめと握手を交わしたカン・マエは指揮台にあがり、のだめはピアノの椅子に着席した。
カン・マエはのだめが居る左後方に軽く顔を向け、のだめが演奏を始めるのを待つ。

十数秒、会場内は静寂に包まれ……

ピアノに置かれたのだめの両手がスゥッ…と上がると、右手はド・ファ・シ・ド、左手はラ・ド・ファの鍵盤に思い切り指が叩きつけられた。
途端、バァーン!と大きな音がピアノから鳴り響いた。

その音を聴いた多くの観客たち…恐らくラフマニノフピアノ協奏曲第2番の曲をよく知る者たちであろう…の目は大きく見開かれた。
彼らが今まで聴いてきたピアノ協奏曲とはあまりに違いすぎる、力強い始まり方をしたからだ。
案の定、カン・マエはありえない程瞠目してのだめを見ている。


 最初のpp(ピアニッシモ)を、ff(フォルテッシモ)で…!!??


次の音も同じように叩きつけられ為、ピアノは「ドゴーン!」と大きな音をたてた。
更に驚いた表情で振り向き、のだめを凝視…いや、「がん見」するカン・マエ。
そしてそれはオケ団員たちも同じで、中には口を大きくあんぐりと開けて呆然とした顔をする者もいる。

ffで終わる筈のピアノソロの前奏はffff(フォルッテシシシモ)となりコンサートホールに盛大に響き渡る。

それを観ていた千秋の脳裏に、まだ二人が大学生だったころの出来事が走馬灯のように駆け巡った。

千秋は大学4年の時、卒業公演でシュトレーゼマンの指揮でこのピアノ協奏曲を演奏した。
のだめはその演奏を見て大いに触発され、千秋と二人で連弾したのだ。

楽譜も何も関係なく、のだめの野生(野獣?)の感性で弾かれたラフマニノフ……あの時も今回と全く同じでppで弾く部分を、鍵盤に力任せに指を叩きつけてffで弾いたのだった――。

流石にあの時のような「勝手な作曲」はしていないものの、演奏のテンポは非常に速く、飛んだり跳ねたりするように弾かれている。

カン・マエはそれでも彼女の演奏に合わせようと懸命に指揮棒を振っている。

(あの馬鹿…!!
 よりにもよってマエストロ・カンの演奏の下(もと)でアレをやるなんて…!!)

千秋の顔は最初は蒼白だったものの、徐々に頬が紅潮していくのが自分でも分かった。
すぐ隣に座っているシュトレーゼマンの顔も紅潮しており、だがそれは千秋のように怒っているのではなく、唇を固く結んで頬を大きく膨らませ、身体を小刻みに震わせて必死になって笑いを堪えているのだった。。。





30分後、怒涛のピアノコンツェルトが終わり――。
会場内には割れんばかりの拍手が沸き起こっている。

最初は壮絶な始まり方をしたピアノ協奏曲だったが、数分後にはほぼ楽譜通りの演奏に戻っていた。

客席を振り返ったカン・マエの顔には玉のような汗が滴り、前髪は額に張り付いている。
左手で軽く髪の毛を正した後、観客に向かってお辞儀すると拍手の音は更に大きくなった。
指揮台を下りてのだめと握手をした時の彼の顔は些か困ったような顔をしていたという――。


舞台袖に下がった途端、それまで張りつめていた緊張が溶けたのか、カン・マエの身体にどっと疲れが襲ってきた。
たった30分でこれほど汗が滴るような演奏をしたのは…大学を卒業し、大きなホールで初めて指揮をした時以来か…いやあの時もこれほどではなかった…とカン・マエは思った。

息を整えようと大きな深呼吸を数回し、指揮者控室に向かおうとした時、舞台でオケ団員たちに呼び止められていたのだめが「マエストロ!」と走り寄ってきた。

「あ、あのマエストロ・カン、私、演奏の始めの方、集中しすぎてどうやって弾いたか覚えてなくて…。
 ごめんなさい…」

とシュンとして表情で頭を下げた。

「確かに最初の方はかなり自由な演奏だった」

「ひぇっ…す、すみません…」

「……だが悪くなかった。
 解釈云々の問題ではなく、君の演奏は魂が籠っていた…とそう感じた」

人間は集中すると自分でも思いも寄らない演奏をしてしまうことがある。
カン・マエもピアノ弾きの端くれだ、そんなことがあるということは承知している。

「あ…!
 アリガトウゴザイマス…!」

のだめはペコリと腰を大きく曲げてお辞儀をしたあと、胸を撫で下ろした。

「はぁ~ヨカッター!
 マエストロ・カンに叱られるかと思って、ドキドキして…」

「…だがもし次にコンチェルトをやるのなら、ああいうのはもう勘弁してほしいものだ。
 オケ団員たちも困っていたしな。
 クラシックはジャズではない。
 時には即興音楽も悪くないが、ある程度は作曲者の意図通りに演奏するべきだ」

「は、はい…っ!
 肝に銘じておきマスッ!」

のだめは兵隊のように敬礼するとニコッと笑みを作った。
彼女の純真な笑顔を見ると思わずカン・マエも柔らかな笑みを僅かにこぼした。
その時後ろから誰かが歩いてくる気配を感じたので、2人はそちらの方を向くと千秋がゆっくりと近付いてきていた。
のだめは嬉しそうに手を振る。

「あ、真一クン!
 今の演奏、聴いてくれてまシタかー?」

「の―――だ―――め―――ぇ…」

廊下の向こう側に窓がある為、逆光になっていて千秋の表情はこちらからはよく見えないのだが、それでも目がギラリと光って怒りの形相をしていたのが分かった。
夫のその様子にのだめは「ひっ…!」と云った後、顔は引き攣り、思わず後退りをする。

「あ、あの…マエしゅトロ、私はこれで…。
 し、失礼します…!」

ドレスのスカートの裾を両手で鷲掴みにしくるりと踵を返すと、のだめは千秋とは反対方向へと走って行く。
が、まるでスプリンターのように凄い勢いで走りだした千秋は一瞬のうちにカン・マエの横を通り過ぎ、あっという間にのだめに追いつき横に並んだ。
その千秋の顔は何故か不気味な笑みが作られていた。

「もぎゃーーー!!!」

千秋は涙目になったのだめのドレスの襟ぐりをむんずと掴むと、そのまま彼女の体を引き寄せ、

「お前………侘びろ!
 マエストロに死んで侘びを入れろ~~~~!!!」

鬼のような形相で首に両手をかけて締め始めた。

「ぐ、ぐえっ…じんいぢぐんっ、ぐるじーっっ…!」

「うるせー!!!
 俺はお前をコロして潔く罰を受ける!!」

その騒ぎを見た彼らの友人3人がドタバタと走り寄ってきた。
峰龍太郎、三木清良、奥山真澄である。

「駄目よ~!!
 千秋さまは犯罪者になっちゃ駄目!!」

と真澄。

「ち、千秋、落ち着け!!
 ムショの飯は味気ないらしいぞ!」

龍太郎が千秋を羽交い絞めしながら云う。

「千秋君!!話し合いよ!話し合いで解決しましょう!」

そして清良がのだめを庇うように千秋の前に立ちはだかった。

「これが落ち着いていられるかぁ~~~!!!
 あんな演奏しやがって…!!!
 それにこいつは動物だから話しなんか通じないっ!!」

「っ…ゲホッ!ゲホッ!
 ま、まさか真一君がDVDだったなんて…。
 もう、もうリコンです…!!
 みくだりごはん突き付けます…!!」

「誰が光ディスクだ、ゴルァ!!
 それを云うならドメスティックバイオレンス!!DVだろーが!
 それに“みくだりごはん”じゃねぇ!
 み・く・だ・り・は・ん!!
 三行半、だ!!
 この…バカチンがーーーー!!!!」

千秋は友人たちの制止を振り切り、彼女の喉仏に強烈なエルボーを食らすとのだめは

「ぎゃぼー!!」

と叫びながら廊下の床に転がった。

そんな騒ぎを尻目にカン・マエはそっと静かにその場を立ち去った。
廊下を曲がり、汗を含んで垂れた前髪を左掌でかき上げながら大きな溜息を吐いた時、数メートル先に見知った人物が居ることに気が付いて些か顔を顰める。
その人物は笑顔でカン・マエに小さな拍手を贈りながら歩み寄ってきた。

「ブラボー、ブラボー!」

「…マエストロ・シュトレーゼマン」

「どうでしたか?
 のだめチャンとのコンツェルトは…」

「無茶苦茶ですね。
 あんな演奏をされては天国のラフマニノフも悲しみに暮れていることでしょう」

「ははは、だろうねぇ…。
 私も何年か前に共演したとき、大変だったよ。
 でも不思議なんですよねぇ………」

「…不思議?」

「何故かまた一緒に演奏したい、と思ってしまうんですよ、彼女の演奏は」

「………」

「不思議なコなんですよ。
 ま、演奏後は疲れ果ててしまうんだけどね。
 私も今の貴方のように、演奏後は疲れ果てて…お蔭で夜ぐーっすり眠れましたよ」

「貴方はどんな時でもぐっすり眠れるタイプじゃないのですか?」

シュトレーゼマンは微笑んで小さく肩を竦めると「Treffen wir uns wieder!(また逢いましょう)」と軽く手を挙げて去っていった。
カン・マエはシュトレーゼマンの後ろ姿が見えなくなるまで見送ると、重い足取りで指揮者控室へと向かう。

控室に入りドアを閉めると、ソファに雪崩れ込むように座り体重のすべてを預けた。
そして疲れを吐きだすかのように大きな溜息を吐いた後、右掌で目を覆った。

「メグミ・ノダ…か…。
 この私をこれほどまで翻弄してくれるとは…」

そう独り言ちたが、カン・マエの口元は緩んでいる。

確かに今日の演奏は彼女の奔放っぷりに面食らったし非常に疲労困憊したが、いい演奏が出来たと心から思っている。
そしてシュトレーゼマンが先ほど云ったように、こんな大変な思いをしたというのにまたいつか、彼女とコンツェルトしてみたい…と思っているカン・マエなのであった。


♪終わり♪





スクロールするとあとがき

























…と相変わらず「のだめウィルス」にヤられっぱなしのカン・マエでした(笑)
のだめ、最強です。
きっとのだめのことだからコンツェルトをしたら思う存分カン・マエを翻弄してくれるだろうなーと。

そしてルミさん。
あの美しいお姿は、きっとミルヒー(シュトレーゼマン)に気に入られるはず…!!!
んでもってそれ(ナンパ)を目撃したら、カン・マエはぜーったいに怒り心頭だろーな、クックックッ…。
ついでについつい思わず妻のことを「麗しい」って云っちゃうんだ、いつも思ってるのに絶対に口にしないであろう一言をっ!
…と思ったら妄想止まらず(苦笑)

でもたったこれだけのSSなのに、仕上げるのに矢鱈と時間が掛かりました…(汗)

で、そんな麗しい妻のことを「ヴェロキラプトル」とか云っちゃった後の二人の様子を小劇場にしてみました。
因みにヴェロキラプトルはこちら。

velocirap.jpg


映画「ジュラシック・パーク」で一躍有名になった恐竜です。
こんな見た目完全獰猛な恐竜とルミを一緒にするなんて、カン・マエ、酷いね…。



小劇場




東京にある高級ホテルのスイートルーム。
部屋に帰ってくるとルミはたいそう不機嫌な様子で手にしていたバッグをソファに放り投げた。

「おい、それは俺が誕生日プレゼントにあげたバッグだろ。
 ぞんざいに扱うな」

「………」

「何をそんなに怒ってる?」

ルミは振り向くと同時にカン・マエをキッと睨む。

「どーせ私は獰猛な鳥だもんっ!」

「…そんなことで怒ってるのか」

呆れた顔で云いながら、カン・マエは大きなソファの中央に座る。

「そんなことって…。
 女性を恐竜に例えるなんて、先生ってデリカシーなさすぎ!」

「お前は俺と結婚して何年になる?
 俺にそういうものを求めるなと云ってるだろう」

「別に求めてません!
 私が勝手に怒ってるんだから放っておいてっ!」

「………」

「どうせ先生は私がこうして怒ってる姿がその、ベロ…ベロ……えっと…」

「…ヴェロキラプトル」

「そう!
 そのベロキラプトルだとか思ってるんでしょ?!」

ルミは指を差して再び睨み付けたが、カン・マエは平然とした態で大きく首を横に振る。

「嘘ばっかり!」

そう云ってルミは乱暴にソファに座る。

「因みにヴェロキラプトルは恐竜や現在生息する鳥の中で、一番頭脳が高かったと云われているそうだ」

「………」

返事をせぬままルミはテーブルにおいてあったピーナッツの袋を開けて次々と口の中へ放り込む。
その姿を見てカン・マエは暫くの間笑いを堪えていたのだが、どうにも抑えられずに「くくくっ…」と声が漏れてしまった。
ルミは怪訝な目で夫を見る。

「……何?」

「い、今のお前の姿……粟をついばむインコにそっくりだ…!」

「―――~~!!!」

更に怒った顔になったルミは、自分の背中に置いてあったクッションをカン・マエに投げつける。

「もうっ…!!最低!!!」

「最低、か。
 云われ慣れてる」

「最低だし最悪よ!
 なんで鳥ばかりに例えるの?!」

「それはお前が『トゥルミ(丹頂鶴)』だからだ」

「………」

「その上、サムタクだ」

「………」

「サムタクよりはインコの方が可愛いと思わんか?」

「………」

「インコが嫌なら、オウムにするか?」

「………」

「なんだ、だんまりか?」

「………」

「……まぁいい、俺としては今から“官能的なインコの囀り”を聴かせてもらおうと思っているのだが…」

カン・マエは投げつけられたクッションを足元に放りながらそう云うと、ルミのしなやかな腰を抱いて引き寄せる。
相変わらず不服そうな顔をしているルミだが、そんな妻の姿も堪らなく愛しいと思っているカン・マエの左頬は思わず歪んだ。

「………」

「久しぶりなのだから、じっくりと…な」

そして彼女の桜桃色をした柔らかな唇に自分の唇をゆっくりと重ねるのだった…。





当二次のいつものカン・マエでございました。

因みに結婚して8年位した頃の出来事なのですが、まだまだラヴラヴです。
そりゃそーですよね、この頃に二人目ご懐妊してるので(笑)



あ、そうそう、余談も余談ですが…。
久々に「クラブ・ワン・モア・キッス」に訪れた千秋とシュトレーゼマンですが、お店は経営者が変わり、高級ゲイバーに変わっておりました。
そこでオカマちゃんたちに手厚いもてなしを受けた二人は、店を出た頃には抜け殻のようになっていたそうです…特にシュトレーゼマン…(涙)

おあとがよろしいようで…ちゃんちゃん♪

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 小豆 | URL | 2014-10-19-Sun 01:01 [EDIT]

寅三吉。様~!
お久しぶりにございます~

子寅ちゃん達もお元気ですか?


いやいや、少し前に初めてのだめを見ましたので
かなり新鮮なイメージで読ませて頂きました!

私のミルヒーはどうしても竹中さんでして(笑)

うんうん、絶対ルミちゃんハントしに行きますよ~!
しかも別れ際に手にキスとかもくろんでそうだし…


のだめの演奏に引きつるマエストロ(笑)
のだめと千秋先輩のコントのような二人+三人
あぁ、想像出来る~~

本当は、タイミングが合えばベバにお二人を登場させたかった!と言うお話があったようですね
実現してればどうなった事でしょうねぇ♪


それにしても

思わず麗しいって言っといてラプトル出してくるなんて、もう…相変わらずつれないんだから~マエストロ~~

でも、ラプトルなんて言いつつ
その可愛らしさには抗えない訳ね(笑)


また楽しみにしておりますね~♪

Re: タイトルなし 寅三吉。 | URL | 2014-10-19-Sun 13:45 [EDIT]

●小豆様

こんにちは!ご無沙汰しておりますv
…と云っても私の方はちょいちょい小豆様のブログを拝読しておりますので、あまり久しぶり感はないのですが(笑)

子寅たちはもー元気すぎてイヤになります…(溜息)
でも明日から二日間、ディズニーリゾートに行くのでこれで体力消耗してくれると有り難いです~恐らく親の方が疲労困憊すると思いますが。

のだめウィルス、新鮮でしたか?
まずのだめとベバをコラボさせるってのがおかしな話ですよね(苦笑)

私は漫画を先に読んでいたので、のだめキャラは漫画のイメージが強いです。
でもドラマはかなり原作に忠実に作られてたので、キャスティングに違和感は覚えませんでした。
ミルヒーも白人さんが演じられるより、竹中さんの怪演?で輝いてましたし。
玉木君も白目にしてまで迫真の演技してましたしね~いやーあれはジャ●ーズには無理ですわ…。

> うんうん、絶対ルミちゃんハントしに行きますよ~!
> しかも別れ際に手にキスとかもくろんでそうだし…

無類の女好きですからね(笑)何せ一見男に見える女の子を女だと見分けられるレベル…。
そして手にキス…ですと?!
しまった…!
そういうシーンを入れれば、カン・マエの怒りが更に沸騰したろうに!!(爆)

> のだめと千秋先輩のコントのような二人+三人
> あぁ、想像出来る~~

ははは、リズさんとこのSSイメージ曲がカッチーニのアヴェ・マリアでしたらば、我が家のSSイメージ曲はこちらだと思います。

https://www.youtube.com/watch?v=ITfTTV_6zoQ

もーピッタリだと思いません?(笑)
因みに「盆回り」というタイトルだそうです。

> 本当は、タイミングが合えばベバにお二人を登場させたかった!と言うお話があったようですね
> 実現してればどうなった事でしょうねぇ♪

そうなんですよね。
何せ向こうのドラマ撮影スケジュールはいつもギリギリ…。
オファーするには遅すぎるだろう…と諦めたらしいのですが、丁度撮影時期に上野さんの方だったかな?が映画祭か何かで釜山に来られてたらしく、「オファーすれば良かった!」と監督さん項垂れたそうですね。
残念ながらドラマでは実現できなかったので、こちらのSSで我慢してください(笑)

> 思わず麗しいって言っといてラプトル出してくるなんて、もう…相変わらずつれないんだから~マエストロ~~
>
> でも、ラプトルなんて言いつつ
> その可愛らしさには抗えない訳ね(笑)

本当はいつも「ルミって本当に美人だし、すっげー可愛いしもー堪らん!!最高!!トゥ・ルミはミーの嫁!!」って思ってるんですけどね~。
でもそんなこと、絶対に口に出しません(苦笑)出したら負け、とか思ってると思う…。
そしてそんなルミが可愛すぎてどうしていいか分からず、ついついイジワルをしてしまう精神年齢小学生のマエストロでした。

また楽しいSSが思いついたら、こっそり発表したいと思います♪
今回も有難うございましたv


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