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今回のお話の主役は、リトル・ゴヌとオリジナル・キャラであるアレッサンドロ・カニーニョ君です。
当二次ではゴヌ君はカン・マエのところに数年、アシスタントとして弟子修行するのですが、その間アレッサンドロが住むシェアハウスに住むことになってます。
ここ最近日本でもシェアハウスが話題になることがありますが、ドイツ…というか欧米ではシェアハウスってごくごく普通のことなんですよね。
時期はドラマ終了から6年ほど経った頃の話。
昨日アップしたお話と丁度同じころのお話になります。
「Primal」に出てきたシーンが少しだけ関係してきますが、読まなくても問題ありません。
今回も短いです。
それでは続きからどうぞ♪
■
ドイツ、ミュンヘンの中心街より車で20分ほど走ったところにある住宅街。
とある一軒家のリビングルームにて、1人の韓国人青年がテーブルに向かってレポート用紙に何かを書いていた。
先ほどからリビングに置いてあるオーディオシステムのスピーカーからはイギリス人作曲家、エドワード・エルガーの曲が流れている。
青年の名前はカン・ゴヌ。
彼は2年前、通っていた母国の大学を優秀な成績で卒業、それから1年間ドイツへの渡航費や当面の生活費をバイトをして稼いでから、彼と同姓同名の師匠が住んでいるこの地ににやってきた。
現在彼は師匠のアシスタント…車の運転や細かな事務処理、それからミュンヘン・フィルのライブラリアンの仕事を手伝いながら、指揮者としての在り方を学んでいるのだ。
彼の師匠は大変厳しいので、その合間に音楽に関してのレポートを提出させることも欠かさない。
そして今、その課題のレポートを書いている真っ最中なのであった。
愛の挨拶 ~エルガーとアリス~
スピーカーから流れる音に耳を傾け「うーん…」と唸りながらシャープペンのノックボタン側で後頭部をコリコリと掻いていると、2階から誰かが降りてくる足音が聞こえてくる。
ドアが開くとこの家に同居している190㎝近い長身の青年…イタリア人のアレッサンドロ・カニーニョが入ってきた。
「ゴヌ、グーテン・モルゲン」
と云って欠伸をすると、アレッサンドロは寝ぼけた眼を指で擦った。
もう10時近い時間なのだが、昨夜は遠距離恋愛をしている可愛い恋人をシュトゥットガルトにある彼女の家まで送ってきて、どうやら夜遅くに帰ってきたようだ。
「グーテン・モルゲン、アレックス。
コーヒーを飲もうと思ってたところなんだけど、君も飲むだろう?
君は朝はカフェ・ラテだっけ?」
「うん、そう、有難う」
ゴヌは立ち上がり隣りの部屋のキッチンへ移動すると、アレッサンドロは机上のレポート用紙と数冊の本に目をやる。
「休日だってのに、勉強中?」
「ああ、今はエルガーの曲のことをレポートに書いてるんだ」
「へー、だからエルガーの曲を流してるのか」
「他の人はどうか知らないけど、俺はその作曲家の曲を聴きながらレポートを書くと、いいのが書ける気がするんだ」
コーヒーの抽出が終わると、ゴヌは自分のカップにコーヒーを、アレッサンドロのカップにコーヒーとミルクを注いでリビングに戻る。
アレッサンドロは「ありがとう」とカップを受け取り
「エルガーといえばやっぱり『威風堂々』かね。
あとは『エニグマ変奏曲』とか」
と彼の朝食であるビスコッティをカフェ・ラテに一度浸してから口に運ぶ。
「やっぱりその辺りが有名どころだよね。
…で、エルガーのこと勉強して思ったんだけど…エルガーとアリスってさ、先生とルミの姿となんだか被るんだよね」
「エルガーと……アリス?」
「うん、エルガーとその奥さんのアリス…知らない?」
「あー…俺って音楽史が苦手で…。
好きな作曲家のことは詳しいんだけど、それ以外はちょっと…。
「アリスはね、エルガーのピアノの教え子として知り合ったんだ。
エルガーの類稀なる才能を早くから見抜いていて、結婚後はエルガーの仕事のマネージメントをしたり、精神的に繊細なエルガーを励まして支え続けたんだって。
文字通り公私ともに、ね。
あの『威風堂々』もアリスが居たから出来上がったといっても過言じゃないんじゃないかな。
『愛のあいさつ』なんかはアリスとの婚約期にエルガーがアリスに送った曲らしいよ」
「『愛のあいさつ』って…」
とアレッサンドロは「愛のあいさつ」の最初の節を口ずさみ
「…だよな?
しかもこれって確かヴァイオリンとピアノじゃなかったか?
…ますますルミとマエストロが被るな」
ニヤリとするアレッサンドロにゴヌも「だろ?」と同じような笑みをこぼして返した。
だがゴヌの表情はふと翳り
「でも……」
と持っていたカップをテーブルに置く。
「…でもアリスの死後、エルガーはそれまで沸き立つように存在していた創作意欲が急激に薄れていったんだ…。
それまで作曲してきたような独創的な曲は書かなくなってしまい、終には筆を折ってしまったんだって。
――そんなことを聴くと…もし…」
云おうか云うまいか迷っているのか、ゴヌは数秒ほど押し黙ってしまった。
「…もし?」
「飽くまでも“もしも”の話だけど、先生よりもルミが先に逝ってしまったら、先生は音楽の世界を棄ててしまうんじゃないかって…。
俺はそう思ってしまうんだ…」
「………」
二人は以前、ルミがタクシー乗車時に事故に遭った時のカン・マエの様子を思い出していた。
あの時のカン・マエの姿は忘れようと思っても忘れられない。
いつもの溢れ出んばかりの覇気がすっかりと消え、そのまま彼までも消え去ってしまうのではないかと思えるような在り様だったのだ。
「―――分かるよ。
マエストロは多分、ルミ無しではもう生きていけない…。
…いや、生きてはいけるけど、全てが駄目になってしまう…と俺も思う。
音楽を棄てることはなくても、今までのような意欲で向き合うことはなくなるんじゃないかな…」
それから暫くの間二人は無言になり、スピーカーから流れるエルガー作曲の「チェロ協奏曲」の切ない旋律が部屋の空気を更に重苦しくさせている。
「でも…年齢からいってマエストロの方が先に逝くだろ?
大丈夫だよな?!はははっ!」
この雰囲気を打破しようとアレッサンドロはわざとらしく笑う。
「うん、まぁね。
エルガーとアリス、先生とルミの違うところは、アリスの方がエルガーよりも9歳年上だった…ってところかな?」
ゴヌはそう云ってコーヒーを口に含むと、柔らかく笑った。
「ところでレポートは何枚書くんだ?」
「今回は10枚。
あと残り3ページあるんだよなー…。
まだアナリーゼもやらなきゃいけないし、しかもドイツ語で。
俺の場合、文法やスペルの間違いまで添削されるからさ、この時ばかりは先生の弟子になったことをホント後悔するよ」
「……マエストロ、超厳しいな…」
「超、だけじゃ物足りないよ…。
超絶!最高に厳しい!…だよ
エルガーが終わったら、今度はワーグナーを勉強しろ!だってさ」
眉尻を下げながらゴヌは笑うと、アレッサンドロはニヤリとする。
「お、ワーグナーなら俺、詳しいぜ」
「へぇ、アレックスはワーグナーが好きなの?」
「好きって云うか、ワーグナーは私生活がスキャンダルだらけで面白いんだよ。
俺はワーグナーと聖書の授業は真面目に聴いてる学生だったんだ。
旧約聖書はなかなかセクシーな場面が多いもんだからね」
ゴヌはプッと吹き出して笑った後、
「…それって真面目なの、不真面目なの?」
「さて、どっちだろ?
こんなことマエストロに知られたら怒られそうだよな」
「あー。先生、音楽に対しては本当に真面目だからなぁ…。
間違いなく『お前は音楽を冒涜してる!』なんて云われそう」
「そうそう、そーなんだよな!
この間もさ、ほら、俺、もうすぐファゴットの首席になるだろ。
そうしたらマエストロなんて云ったと思う?
『お前みたいな種馬がファゴット首席だなんてミュンヘン・フィルももう終わりだな』なんて云うんだぜ?
もうずーっとガールハントなんてしてないってのにさ!」
「ハハハハ!
先生なら云いそう!」
「非道いだろ?」
「いや~まだマシだよ。
だって韓国に居た時なんてもっと非道かったんだよ?
俺の叔母さんさ、先生が指揮をしたオケでチェロをやってたんだけど、あまりの下手さに先生に『フンのかたまり』って云われたんだから!」
「フンのかたまり?!
そりゃ非道いなぁ!」
「あとは一緒にトランペットやってた人にはさ、『意見を云う価値もない』なんて云ってさ…」
リビングには二人の笑い声が響いている。
そしてお互いが尊敬してやまない人物の話題をいつまでも繰り広げるのだった。
Das Ende
■
スクロールするとあとがき
君たち、カン・マエのこと好き過ぎ(笑)
いつもカン・マエのことを話題にする時、最初はカン・マエの愚痴大会になのに、最終的には「やっぱり先生(マエストロ)は凄い」という話に落ち着く二人の会話だったりします。
ある意味ルミよりもカン・マエへの愛が深いのかもしれません…。
因みに超!絶!最高に厳しい師匠からのお達しで、ゴヌには「ドイツに居る間はドイツ語以外禁止令」が出ておりますので、この時の会話は全てドイツ語です。
流石に分からない言葉は英語で訊くこともありますが。
当然ながらレポート提出もすべてドイツ語(苦笑)
ゴヌ君、あーたホント、大変な師匠のところに弟子入りしちゃったね。。。
でも勉強熱心で耳がいいゴヌ君なので、ドイツ語も言葉の発音もあっという間にマスターしちゃうと思います。
もうだいぶ前…1年半くらい前に思い付いたSSです。
本当は最終話をアップする前にアップしようかなーと思ってたんですが、カン・マエとルミが出てこないので、見送ってたんですよね。
今回の2本のSSのタイトル、偶然にも両方ともエルガーの曲からになってしまいましたが、特に意味はありません。
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